ホモシステイン研究室

ホモシステイン研究室

ホモシステインとは

ホモシステインとは

ホモシステイン(homocysteine) は、血液中に含まれるアミノ酸の一つで、必須アミノ酸で含硫アミノ酸である「メチオニン」の、代謝における中間生成物です。

ホモシステインは、in vitroの研究で血管内皮細胞障害、血管平滑筋細胞増殖、血小板活性化、血栓形成などの作用があることが知られています。

  • Tawakol A et al:Circulation,95,1119-1121(1997)

  • Tsai J et al:Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,91,6369-6371(1994)

  • Ungvari Z et al:Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.,23,418-424(2003)

  • Lawrence de Koning A et al:Clin.Biochem.,36,431-441(2003)

  • Lang D et al:Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.,20,422-427(2000)

米国の代表的な地域コホート研究である、Framingham研究の参加高齢者を対象とした追跡調査では、血中のホモシステイン値が高い人ではアルツハイマー病を発症するリスクが8年間で約2倍近くになることがわかりました。また、年齢やアポリポ蛋白E(アポE)の遺伝子型など、既に知られている危険因子とは、独立の危険因子であることも報告しています。

血漿中や細胞内のホモシステイン濃度は、加齢と共に上昇することや、生成されやすくなることが報告されています。

また、上図のようにホモシステイン値が高いグループ(同じ年齢帯でホモシステイン値が上位4分の1に属する人を「ホモシステイン高値」)は、そうでないグループに比べて認知症の累積発症率が高く、ホモシステインの蓄積により認知症の発症が増加することがわかります。(Seshadri S, et al:N Engl J Med 346(7):476–483(2002))

ホモシステインはコホート研究や症例対照研究で心筋梗塞など動脈硬化性疾患との関連が示唆されているなど注目の危険因子の一つで、近年はうつ病や認知症との関連も示唆されています。

含硫アミノ酸って何?

アミノ酸には硫黄が含まれているものがあり、これを含硫アミノ酸と呼びます。タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち「システイン」と「メチオニン」の2つが含硫アミノ酸と呼ばれています。髪を燃やすと硫黄独特の匂いがするのはこれによります。

その他には、タウリン(厳密にはアミノ酸様物質)やシスチン(システインが2分子結合)、ホモシステインも該当するとされています。

 

メチオニン代謝とホモシステイン

メチオニンは必須アミノ酸(9種類)のひとつでヒトの体内で生合成ができないため、食物から摂取します。

必須アミノ酸とは

ヒトの身体に必要なアミノ酸は20種類、そのうち体の中で生成できないために、全て食品から摂取しなければならないアミノ酸が必須アミノ酸です。(体の中で生成することができるのは「非必須アミノ酸」です。)バリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、ヒスチジンの9種類が該当します。

 

【アミノ酸の桶の理論】

必須アミノ酸はどれかひとつでも不足していると、その不足しているレベルまでしか利用できず、ほかのアミノ酸がすべて無駄になるため、足りないアミノ酸を他の食品から摂取することがとても重要です。(一番少ないアミノ酸の量の分しか水がたまらない)これが「桶の理論」と呼ばれています。例えば、小麦粉はアミノ酸スコアが44で、リジンが不足しているので、リジンの多い肉や魚、大豆製品を組み合わせることが必要になります。

 

食物に含まれるタンパク質は胃腸で消化され、最小単位のアミノ酸となって吸収されます。アミノ酸はさらに肝臓で分解、または作り替えられて、体の細胞や生体反応に欠かせない酵素を作ります。このアミノ酸のひとつである「メチオニン」は、アルコールを肝臓内部で処理する働きを行う酵素の主な原料として使われたり、肝臓内部の脂肪を体内の脂肪組織に運搬する働きがあります。

このメチオニンが代謝されるとき、一時的にできるのがホモシステインです。

ホモシステインはメチオニン、あるいはシステイン、グルタチオンに代謝しますが(下図参照)、代謝経路に異常が生じると、血中のホモシステイン量が上昇します。

ホモシステインは介入可能な危険因子

ホモシステインはメチオニンが肝臓においてリサイクルされる際につくられますが、肝臓の中で再びメチオニンへと戻される(変換する)際に必要なのが葉酸、ビタミンB6、そしてB12です。これらの栄養素が不足するとホモシステインからメチオニンへの変換が滞るため、ホモシステインが過剰になります。その結果、肝臓から血液中に流れ出た状態が高ホモシステイン血症になります。

高ホモシステイン血症と脳血管障害、冠動脈疾患、血栓症など動脈硬化性疾患との因果関係は1960年代より明らかにされています。(McCully KS :  Am J Pathol  ; 56 : 111-128(1969),Welch GN: N Engl J Med ; 338 : 1042-1050(1998) ).特に、脳梗塞の危険因子であるとする肯定的な報告が多く、欧米の研究では、血中ホモシステイン濃度は脳梗塞と有意な関連があるという報告があります。(Perry IJ et al: Lancet :346:1395-1398(1995)).日本にて行われた49~79歳、39,242名を対象にした10年間の追跡研究では、血中ホモシステイン濃度が高いグループ(≧15.3 μmol/l)は正常のグループ(<10.5 μmol/l)と比べて、虚血性脳卒中、虚血性心疾患、全循環器疾患の死亡率がそれぞれ4.4倍、3.4倍、1.7倍でした(下図参照)。(Renzhe Cui et al: Athrosclerosis 2008 Jun 198(2) 412-418)

 

高ホモシステインによるリスク

 

血中ホモシステイン濃度は、葉酸の摂取で下げることができるが、脳梗塞の再発予防につながるか否かは、今後の検討課題とされています。(Jacques PF et al: N Engl J Med:340.1449-1454(1999))

食事やサプリメントでビタミンB群(B6、B12、葉酸)を十分に摂取すれば、ホモシステイン値を低下させることができるとされています。

 

【白澤卓二先生論文】認知機能の低下とホモシステイン、葉酸、ビタミンB12との関連性(文字部分をタップいただくとページジャンプします)