ホモシステイン研究室

ホモシステイン研究室

ホモシステインと認知症

ホモシステインと認知症

ホモシステインとは

ホモシステイン(homocysteine) は、血液中に含まれるアミノ酸の一つで、必須アミノ酸で含硫アミノ酸である「メチオニン」の、代謝における中間生成物です。

ホモシステインは、in vitroの研究で血管内皮細胞障害、血管平滑筋細胞増殖、血小板活性化、血栓形成などの作用があることが知られています。

 

ホモシステインに関する基本的な情報はこちらから(下記の青い部分をタップいただくとページジャンプします)

【ホモシステイン研究室】ホモシステインとは

治療が可能な認知症とホモシステイン

認知症は現在は根本的な治療が困難で、治療は対症療法が中心となります。しかしそれ以外にも、治療が可能な認知機能が低下する疾患としては、さらに以下の4つがあります。

 

  • 1 慢性硬膜下血腫

  • 2 甲状腺機能低下症

  • 3 正常圧水頭症

  • 4 ビタミン欠乏症

 

なかでもビタミン欠乏症(特にビタミンB12、そして葉酸欠乏症)は認知症の原因として重要であると指摘されています。なぜなら、頻度は決して低くなく(研究発表筆者らの物忘れ外来では約3%)、そして見逃されやすく、さらに、不足しているビタミンの補充により、症状の改善が比較的早期からみられるからです。

①ビタミンB12や、葉酸の欠乏によって、「メチオニン合成酵素」が活性型になりません。メチオニン合成素酵素が働かないと、「ホモシステイン」を「メチオニン」に変換することができなくなり、体内にどんどん「ホモシステイン」がたまり高ホモシステイン血症となります。

②同じくビタミンB6欠乏でも、ホモシステインを「シスタチオニン」を介してグルタチオンに変えることができず、同じく「高ホモシステイン血症」になります。

なお、メチオニンは必須アミノ酸の一つであり、コレステロールを下げ、活性酸素を取り除く作用があります。グルタチオンも同様に活性酸素を取り除く作用があります。反対に、ホモシステインは酸化ストレスを生じさせ、動脈硬化を引き起こす原因となります。高ホモシステイン血症は、動脈硬化を促進しますので、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、脳血管障害(脳梗塞、一過性脳虚血発作)を引き起こす原因となります。さらに、高ホモシステイン血症はアルツハイマー病をはじめとする認知症を引き起こす原因であることが判明しています。(福井大学第二内科 准教授濱野 忠則 先生の資料から)

※上図はレキオファーマ社作成

ホモシステインとアルツハイマー病

高い血漿ホモシステイン値はアルツハイマー病の危険因子であることが判明

米国の代表的な地域コホート研究である、Framingham研究の参加高齢者を対象とした追跡調査で、血中のホモシステイン値が高い人ではアルツハイマー病を発症するリスクが8年間で約2倍近くになることがわかった。年齢やアポリポ蛋白E(アポE)の遺伝子型など、既に知られている危険因子とは、独立の危険因子であることもわかった。

米国ボストン大学神経学部門のSudha Seshadriらは、Framingham研究の参加者から、第20回調査(1986~1990年に実施)時に生存しており、認知症を発症しておらず、血清サンプルが得られた平均年齢76歳の米国人1092人(女性667名、男性425名)を抽出。その時点での血漿中総ホモシステイン量を測定し、血漿ホモシステイン値と、それ以降のアルツハイマー病発症との関連を調べた。

追跡期間の中央値は8年(1~13年)。この8年間の間に、111人が認知症を発症し、その内83人はアルツハイマー病と診断された。

これらの認知症は、当初測定した血液中のホモシステイン量が多いほど、発症率が高かった。

対象者の平均年齢は76歳(68~97歳)で、うち女性は667人。血清ホモシステイン値は加齢により上昇するため、研究グループは対象者を5歳ごとにグループ分けし、同じ年齢帯でホモシステイン値が上位4分の1に属する人を「ホモシステイン高値」とした。

その結果、ホモシステインが調査開始時に高値だった人では、年齢やアポEの遺伝子型、脳卒中の既往など既知の危険因子で補正した後も、追跡期間中に認知症を発症する確率が 1.4 倍(95%信頼区間:1.1~1.9)になることが判明した。

特にアルツハイマー病では、この確率が 1.8 倍(同:1.3~2.5)となった。アルツハイマー病の発症とホモシステイン値とには直線的な相関があり、ホモシステイン値が 5 μmol/l上昇すると、アルツハイマー病の発症率が約4割増えることがわかった。

ホモシステインの影響は、対象者の年齢、性別、肥満度、血圧、学歴、喫煙、糖尿病、アルコール摂取量など、認知症の発症に関係があると考えられる様々な要素とは無関係であった。

(Seshadri S, et al. (2002) Plasma homocysteine as a risk factor for dementia and Alzheimer’s disease. N Engl J Med 346(7):476–483.)

 

 

アルツハイマー病に関するビタミンB投与群とプラセボ群の灰白質の萎縮に及ぼす影響の比較

(青色の脳領域はビタミンB治療により2年間にわたってGM損失が大幅に減少する領域を示しています)

(緑色の脳領域は、tHcyレベルが高い(>11.06 μmol/L) 場合、ビタミンB治療によりGM損失が大幅に減少する領域を示します)

Douaud G, Refsum H, de Jager CA, et al. PNAS 110 (23) 9523-9528, 2013.

英国オックスフォード大学の薬理学のデイビッド・A・スミスらの研究グループは、アルツハイマー病の認知機能の障害と関係する脳領域の萎縮を予防する手段として、ビタミンB による血中のホモシステインの濃度を下げることが有効であるかを、MRIによる脳画像計測の方法を用いて調べた。

中等度の認知機能障害(2004年に改定されたピーターソンの基準による)をもつ高齢者に、2年間にわたり大量のビタミンB(B9 (葉酸), 0.8mg; B6, 20mg; B12, 0.5mg) を投薬したところ、脳の萎縮を防ぐ効果が見られた。

ビタミンBを投薬された群では、アルツハイマー病で特に脳の萎縮が見られる領域―海馬を含む脳の正中部から側頭葉―では、対照群に比べて、灰白質(※1)の萎縮が最大 1/7 にまで抑えられた。

対照群では、血液中のホモシステインの濃度が高いグループほど灰白質の萎縮は早く進行したが、ビタミンBを投薬したグループでは、灰白質の萎縮の進行は遅かった。

この効果は、血中のホモシステインの濃度がグループの中央値(11μモル/リッター)より以上の場合でより顕著であり、ベイズ統計学を用いた検定では、ビタミンBにより海馬・側頭葉の灰白質の萎縮が抑えられたことで、認知機能の悪化が防ぐことができたという因果関係が検証された。

今後、高齢の血中レベルのホモシステイン濃度が高く重度の認知機能障害がある患者に対しても、ビタミンB による治療療法が有効であるかを検討することが必要となる。

(※1脳を肉眼的に観察すると、灰色に見える灰白質と白く見える白質に分けることができる。灰白質には神経細胞が多く含まれ、白質には神経細胞から出る神経線維が多く含まれる。ここでは灰白質は、脳の中で神経細胞が多く含まれる領域を指す。 )

 

ビタミンBを投薬された群では、アルツハイマー病で特に脳の萎縮が見られる領域―海馬を含む脳の正中部から側頭葉―では、対照群に比べて、灰白質の萎縮が抑えられた。

 

ビタミンB群によるホモシステイン値低下は軽度認知障害における脳委縮の加速速度を遅らせる

 

ホモシステインは介入可能な危険因子

食事やサプリメントでビタミンB群(B6、B12、葉酸)を十分に摂取すれば、ホモシステイン値を低下させることができるとされています。

 

【白澤卓二先生論文】認知機能の低下とホモシステイン、葉酸、ビタミンB12との関連性(文字クリックでページがジャンプします)